世界中から精鋭の人材が集結する米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS、ボストン)。いつもより早く、春の日差しに包まれたそのキャンパスでは、毎年恒例の「ハーバード社会事業大会」(Social Enterprise Conference 2007)が3月4日、華々しく開催された。社会事業や社会的企業とは、社会貢献を狙いに据えたビジネスモデル。日本でも急速な盛り上がりを見せている。そうした流れを受け、「これまで存在感ゼロ」(関係者)だった日本人参加者も、確認しただけで10数人と一気に「急増」。この分野で先行する米国の専門家、研究者との情報交換や、人的ネットワークづくりにいそしむ姿が印象に残った。(http://www.socialenterpriseclub.com/conference/)
■ビジネスで課題解決へ 「貧しい女性が売春などをしなくてもいいように、彼女たちの雇用につながる衣料関係の会社を立ち上げたい」(ニューヨークのファッション企業に勤める韓国人女性)。「卒業したら、マイクロ・ファイナンス(貧困層の経済的自立を助ける少額融資の仕組み)の企業で働こうと思っている」(国際関係論を専攻するブラウン大学3年の男性)。 HBS学生クラブ株式会社と、ハーバード・ケネディスクール(公共政策大学院)が共催するハーバード社会事業大会。朝食会で出会った20代の若者たちは、目を輝かせながらこう語った。 今回の大会は米国中心に社会事業の専門家や研究者、起業家、将来の実践者として起業を狙う学生など1000人近くが参加。情報交換やノウハウの共有、ネットワークづくりを通して同分野の活動を盛り上げようという、米国でも代表的なイベントの一つだ。 ■チェンジメーカー 大会の基調講演に登場したのが、先の若者たちにとってのヒーローやヒロイン。貧困、環境、福祉、教育など社会の課題解決を目的に、斬新なビジネスモデルを編み出し、社会に変革をもたらす「チェンジメーカー」と言われる人たちだ。 社会的企業や社会起業家を支援する米エコーイング・グリーン財団(ニューヨーク市、http://echoinggreen.org/)のシェリル・ドーセイ会長(写真右)がこの世界に入るきっかけは、ハーバード大医学部の学生時代に読んだ地元紙ボストン・グローブの1面記事。黒人および白人居住地域の間で、乳児死亡率に3倍もの開きがあることに、自らもアフリカ系である彼女は衝撃を受けたのだという。 そこで学生の身で同財団の資金支援を受け、ボストン近郊の貧しい家庭に基礎医療と奉仕活動を提供する「ファミリー・バン」を事業化。ドーセイさんは当時を振り返りながら、課題解決に必要なのは「いかに社会の問題を認識し、自分のこととして受け止めるかという点」と話し、問題意識とイマジネーションの大切さを説く。 ![]() ■非営利製薬会社、低価格医薬をインドで 米ワンワールドヘルス(サンフランシスコ市、http://www.oneworldhealth.org/)のビクトリア・ヘイル創業者兼CEO(写真左)もそうしたパイオニアのひとり。食品医薬品局(FDA)、バイオ医薬大手ジェネンテックを経て、2000年に世界初の非営利製薬企業を設立した。 最初の成果は、内臓リーシュマニア症の低価格治療薬の開発。インド、バングラデシュ、ネパールなどで多発し、治療しないと致死率90%という感染症。06年8月にインドの薬事当局から承認を得た。 途上国特有の病気の場合、薬を買えない貧困層が多い。製薬会社側でも市場が限られるため、新薬開発のメリットがあまりない。同社の「パロモマイシン筋注」だと完治までの費用はわずか10ドル。現在の10分の1の治療費で済むという。 「最初の事業の大きさは問題ではない。まず適切な規模のものを選び、成功すること。できることを証明することで、人々は尊敬の念を抱き、ほかの事業にも信頼を寄せるようになる」(ヘイルさん)。こうした念入りなアプローチが、ビル&メリンダ・ゲイツ財団はじめ、慈善財団からの年間3000万ドルに及ぶ事業資金獲得につながっている。 ■究極の都市型農場 起業家教育、都市開発、公衆衛生など、テーマ別に展開されるパネル討論は計17。うち「持続可能な農業」の部屋をのぞくと、コロンビア大学のディクソン・デポミエー教授(微生物学・生態学)が、自ら代表を務める「垂直農場」プロジェクト(http://www.verticalfarm.com/)を紹介していた。 地球全体での人口増加、気候変動、耕地の減少、中国・インドの食生活の変化--。将来、われわれの食糧は大丈夫か、確かに不安は残る。 こうした大問題の解決策が、消費者に近い都市のビルを1棟ずつまるごと、野菜や果物の栽培に使うアイデア。現在の「植物工場」のいわば高層版だ。無農薬・有機栽培・水の循環といった仕組みも採り入れ、健康・環境にも配慮した。 「今後は都市への人口流入がますます進む。山がちで耕地の少ない日本に向くのでは」とデポミエーさんは話す。 ■ユニークなビジネスプランコンテスト 非常にユニークなのが昼食中に繰り広げられる社会事業ビジネスプランコンテスト。学生中心に70件の応募から厳選された7チームが参戦。観衆のほか、経営学の教員と社会起業家で構成された審査員を前に、1チームたったの2分で要領よく事業プランを説明しなければならない。いわば、起業家がベンチャーキャピタリストを短時間に説得する「エレベーター・ピッチ」というプレゼン手法だ。 その結果、優勝賞金2000ドルを獲得したのは「ローカル・モーターズ」。事業内容はこうだ。炭素繊維製の軽量シャシーなどコア技術の開発を社会的企業が担い、地域ごとに設立された自動車メーカーに技術を供与。自動車会社はオープンソースの仕組みにより、地域独自のデザインのクルマを開発する。こうすることで地域の雇用維持や従業員の士気向上につなげられるという。 時節柄、審査員からは「米国の自動車産業の再生に役立つ」といった講評が聞かれたものの、実現性は低い。それもそのはず、この競技会では、社会的なインパクトの強さがより求められているためだ。 それでも競技会自体、日本の大学関係者の興味をかき立てたようだ。ある大学院生は、「同じようなコンテストを採り入れるよう、担当教授に提案したい」と前向き。学生にとって事業プランの発想・構成力やプレゼン力の養成に役立つと思われるためで、中からとんでもないアイデアが出てこないとも限らない。別の大学ではなんと、1年後のハーバード大会への応募を狙うとしており、その意気やよし。 一方で、ケネディスクールの社会起業家育成コースの教員と、連携に向けてコンタクトを取る大学関係者の姿なども見られた。こうした日本での関心の高まりに、60ヵ国で活動を展開し、社会起業家の強力な支援組織として知られるアショカ財団(バージニア州)も、日本への拠点進出を前向きに検討し始めている。 ■変革のうねり日本でも 自ら障害者支援事業を立ち上げるととともに、社会事業コンサルティングを行うフォレスト・プラクティス(東京都文京区、http://www.fpltd.jp/)の田辺大代表は、03年以降、今回が5回目の参加。その間、社会事業や社会起業家について、米国と日本の変化をつぶさに観察してきた。 田辺さんによれば、とりわけ日本で「地殻変動」のような状況が顕著になってきているという。 「米国では、『大金を儲けるのは難しいが、そこには大きなチャンスがある』として、マッキンゼーなど経営コンサル出身者が実践者としてこの分野に参入してきている。日本でも、小さな組織で経営者や幹部として活動しながら、社会の役に立つことに魅力を感じる若者が増えている。こうした潮流は当分続くだろう」。 【社会的企業/社会起業家/ソーシャルベンチャー】 収益事業を通して、貧困、環境、福祉、教育といった分野で、社会に取り残された問題の解決に取り組む事業体。株式会社、非営利組織(NPO)、社会福祉法人と形態はさまざま。国内でも参入例が目立っており、市民出資による風車建設、専門雑誌の委託販売によるホームレスの社会復帰支援、ネットによる障害者就労、都市部での病児保育など、これまでにない事業モデルが特色。自ら利益を稼ぎ出す分、ボランティアより自立的で活動が長続きしやすい。利益の最大化より社会貢献を使命とするため、課題解決に向けて、市民、行政、企業、団体、学校などと幅広い協力関係を築ける利点もある。 ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
タイトル : 次回の交流会はぜひともどうぞ
ハーバード社会事業大会に参加 コメントありがとうございます。昨日20日に開きました交流会には、SVP東京の佐藤さんもおいでくださいまして合計10人。二次会も含め、なかなか盛り上がりました。会合では佐藤さんの紹介がてら、社会的起業(企業)についての話も出たのですが、技術畑がほとんどで、そもそもそういった概念を知らない参加者が多く、懐疑的な見方をする人も。ボランティアとの違いなど、その特徴や良さを理解をしてもらうのが一苦労でした。次回は6月17日にやりますので、ご都合がよければご参加ください。...more 1年以上経って、コメントをつけるのはどうかと思いましたが・・・
こんにちは。 2008年度の東京工業大学での報告会では、隣席でお話させていただき、ありがとうございました。 報告会に行って、まずは進行役の方の、とにかく楽しそうな空気を感じました。 まさに「ワクワク」という感じ。 ボランティアではなく、ビジネスにするというところに、人間特有の冒険心を感じます。 ボランティアの場合、どうしても「私は、自分を強者、相手を弱者として、無意識の優越感を持っているのではないか」と、自問自答してしまうのですが(活動されている方々がそうだというのではありません)、ビジネスにすることで、なんだか割り切れる部分があったりします。 自分を資産にして動くという社会事業の性格から、上からの目線でのんびりやってる場合じゃないという気がするんですね。 実際に動いている人たちは、事業を成した後でしか味わえない何かがあると確信しているかのようにも思えます。 でも、実際は、お話にもあったように「熱意」が全ての出発点なのですよね。 色々勉強したいという気持ちにしてくれた報告会でした。
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